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千葉地方裁判所 昭和58年(行ウ)8号 判決

千葉県八日市場市イの一三八番地の一〇

原告

株式会社千葉農林

右代表者代表取締役

岡野全孝

右訴訟代理人弁護士

萩原健二

千葉県銚子市二丁目一番一号

被告

銚子税務署長

加藤仁代

右指定代理人

窪田守雄

小林康行

竹澤雅二郎

鳥飼俊夫

劒持哲司

吉田良一

神作昌嗣

戸田俊幸

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五六年二月二六日付け法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書をもつて原告に通知した原告の昭和五二年一月一日から昭和五二年一二月三一日までの事業年度分の所得金額を二億九六六四万八三三九円、課税土地譲渡利益金額を三億〇一六五万九〇〇〇円、法人税金額を一億七八一五万〇九〇〇円及び翌期へ繰り越す欠損金額を零円とする更正処分並びに過少申告加算税の額を八九〇万七五〇〇円とする賦課処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和五二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税確定申告書(青色)に、欠損金額を一八八一万七四二一円、還付金の額に相当する税額を三九万三〇九三円及び翌期へ繰り越す欠損金額を一八八一万七四二一円と記載して法定申告期限までに申告した。

2  被告は、昭和五六年二月二六日付けで、所得金額を二億九六六四万八三三九円、課税土地譲渡利益金額を三億〇一六五万九〇〇〇円、納付すべき税額を一億七八一五万〇九〇〇円及び翌期へ繰り越す欠損金額を零円とする更正処分並びに過少申告加算税の額を八九〇万七五〇〇円とする賦課処分をした。

3  原告は、右更正処分並びに賦課処分につき、いずれもこれを不服として、昭和五六年四月二一日、審査請求をしたところ、これに対し、国税不服審判所長は、昭和五八年一月二七日、審査請求を棄却する裁決をなし、同年二月二五日、原告に裁決書が送達された。

4  しかし、右更正処分及び賦課処分は違法であるから、原告は、被告に対し、その取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし3の事実はすべて認める。

三  抗弁(本件更正処分及び賦課処分の適法性)

1  所得金額の算出

原告の本件事業年度の所得金額は次のとおり算出され、その内容は後記(一)ないし(六)のとおりである。

(1) 申告所得金額 マイナス一八八一万七四二一円

(2) 土地建物譲渡収入計上もれ 二二億五〇〇〇万円

(3) 土地建物に係る固定資産税否認 一九八万四七二五円

(4) 加算金((2)、(3))合計 二二億五一九八万四七二五円

(5) 土地建物譲渡原価認容(取得原価) 一三億円

(6) 同右(立退補償料) 五億円

(7) 建物に係る受取家賃否認 八八二万八〇〇〇円

(8) 未払事業税認容 五八四三万四二四〇円

(9) 減算金((5)、(6)、(7)、(8))合計 一八億六七二六万二二四〇円

所得金額((1)に(4)を加算し、(9)を減算したもの)

三億六五九〇万五〇六四円

(一) 土地建物譲渡収入計上もれ

原告は、上野ビスタビルデング株式会社(以下「上野ビスタ」という。)に対し、昭和五二年七月二五日、別紙物件目録記載の土地建物(以下、右土地を「本件土地」、右建物を「本件建物」、右土地建物全体を「本件不動産」という。)を代金二二億五〇〇〇万円で売り渡す契約をし、同日、原告は、上野ビスタから内金一七億五〇〇〇万円の支払を受けるとともに、本件不動産の前所有者京成電鉄株式会社(以下「京成電鉄」という。)から上野ビスタに対し、中間省略の方法にて売買を原因とする所有権移転登記が経由された。よつて、原告は、右同日、本件不動産を譲渡し、その譲渡収益は二二億五〇〇〇万円である。

(二) 土地建物に係る固定資産税否認

原告は、本件不動産に係る固定資産税一九八万四七二五円を本件事業年度の損金の額に算入した。しかし、本件不動産は、前記(一)のとおり昭和五二年七月二五日に上野ビスタに譲渡されており、原告がこれに係る固定資産税額を負担すべきでないので、右金額を損金の額に算入することを否認し、所得金額に加算した。

(三) 土地建物譲渡原価認容(取得原価)

原告は、本件不動産を昭和五二年七月二一日に京成電鉄から代金一三億円で買い受けたので、右金額を本件不動産の譲渡収益に対する原価として、所得金額から減算した。

(四) 土地建物譲渡原価認容(立退補償料)

本件不動産の譲渡代金には、本件建物に入居していたテナント三社の立退補償料が含まれ、かつ、その額が五億円であることが本件契約時に明らかに予測されていた。そこで、この立退補償料を本件不動産の譲渡収益に対する原価として、所得金額から減算した。

(五) 建物に係る受取家賃否認

原告は、本件建物をテナント三社に賃貸したことにより生じた受取家賃八八二万八〇〇〇円を雑収入金額に計上した。しかし、原告は、昭和五二年七月二五日に上野ビスタに本件建物を譲渡したから、右家賃収入は同社に帰属すべきであり、原告に帰属させるべきではないので、この受取家賃の額は所得金額として計上すべきでない。

(六) 未払事業税認容

原告の、昭和五一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてなされた更正処分により増加した所得金額に対する事業税相当額である。これを本件事業年度の所得金額から減算した。

2  課税土地譲渡利益金額の算出

原告の本件事業年度の課税土地譲渡利益金額は次のとおり算出され、その内容は後記(一)ないし(四)のとおりである。

(1) 申告課税土地譲渡利益金額 零円

(2) 本件土地譲渡による収益額 一八億九四五〇万円

(3) 土地譲渡原価の額 一五億一五六〇万円

(4) 直接間接経費(法定負債利子) 七五七万八〇〇〇円

(5) 同右(法定販売費及び一般管理費) 五〇五万二〇〇〇円

(6) 減算金((3)、(4)、(5))合計 一五億二八二三万円

課税土地譲渡利益金額((1)に(2)を加算して、(6)を減算したもの) 三億六六二七万円

(一) 本件土地譲渡による収益額

原告は、昭和五二年七月二五日、本件土地を上野ビスタに譲渡し、右譲渡は租税特別措置法(以下「措置法」という。)六三条の規定に該当する。本件不動産の譲渡価額は、二二億五〇〇〇万円であるので、本件不動産の昭和五二年分固定資産税評価額に占める本件土地の同評価額の割合(〇・八四二)を本件不動産の譲渡価額(二二億五〇〇〇万円)に乗じて、本件土地の譲渡による収益額を一八億九四五〇万円と算出した。

昭和五二年固定資産税評価額

割合

本件土地

五億六八五五万〇八五〇円

〇・八四二

本件建物

一億〇六六一万八九〇〇円

〇・一五八

合計

六億七五一六万九七五〇円

一・〇〇〇

(注) 小数点第四位以下四捨五入

(二) 土地譲渡原価の額

本件不動産の購入価額一三億円に、前記立退補償料相当額五億円を加算した金額一八億円に、前記(一)の本件土地に係る割合(〇・八四二)を乗じて算出した金額一五億一五六〇万円をもつて、本件土地の譲渡原価とした。

(三) 直接間接経費(法定負債利子)

措置法施行令三八条の四第六項一号、七項の規定に基づき、前記土地譲渡原価の額(一五億一五六〇万円)に保有期間の月数(一)を乗じてこれを一二で除して計算した金額に一〇〇分の六の割合を乗じて計算した金額七五七万八〇〇〇円をもつて、本件土地の保有のために要した負債の利子の額とした。

(四) 直接間接経費(法定の販売費及び一般管理費)

措置法施行令三八条の四第六項二号、七項の規定に基づき、前記土地譲渡原価の額(一五億一五六〇万円)に保有期間の月数(一)を乗じてこれを一二で除して計算した金額五〇五万二〇〇〇円をもつて、本件土地の譲渡のために要した販売費及び一般管理費の額とした。

3  本件更正処分の適法性について

以上のとおり、原告の本件事業年度の所得金額は三億六五九〇万五〇六四円、課税土地譲渡利益金額は三億六六二七万円であり、いずれも本件更正処分における所得金額二億九六六四万八三三九円、課税土地譲渡利益金額三億〇一六五万九〇〇〇円を上回るので、本件更正処分は適法である。

4  本件過少申告加算税の賦課処分の根拠及び適法性について

被告は、本件事業年度の更正処分に伴い、国税通則法六五条一項の規定に基づき、右更正処分により納付すべき本税の額(同法一一八条三項の規定により一〇〇〇円未満を切り捨てた一億七八一五万円)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額八九〇万七五〇〇円を過少申告加算税として適法に賦課した。

四  抗弁に対する認否及び被告の主張

1  抗弁1の(一)のうち、被告主張のとおりの売買契約がなされ、代金内金を原告が受領し、上野ビスタに所有権移転登記がなされた事実は認める。

右売買契約においては、本件不動産の引渡し期限は昭和五三年四月三〇日と定められ、原告は、上野ビスタに対し、上野ビスタから売買残代金五億円の支払を受けるのと引換えに、同日限り、本件建物内のテナント三社を立退かせて本件不動産を上野ビスタに引き渡すものとされた。

原告は、昭和五二年七月二五日以後も、本件不動産を管理して、公租公課を負担し、テナント三社からの家賃も取得していたのであり、上野ビスタが自らの債務として公租公課を負担し始めた昭和五七年八月ころに至って、ようやく原告は本件不動産を上野ビスタに引き渡したと見るべきである。

よつて、本件不動産の売買は昭和五七年八月に完結したもので、本件事業年度内には完結しておらず、それゆえ、その収益額も未確定であつたから、本件不動産の譲渡収益を本件事業年度に計上すべきでない。

2  同1の(二)のうち、原告が被告主張の固定資産税を被告主張の損金の額に算入した事実を認めるが、その余の主張を争う。

3  同1の(三)のうち、原告が本件不動産を被告主張に京成電鉄から代金一三億円で買い受けた事実を認めるが、その余の主張を争う。

4  同1の(四)の立退補償料が五億円と予測されていたとの事実は否認する。

立退補償料の額は、原告がテナント三社との実際の交渉経過を踏まえて総合勘案の結果算定した最低限の額である九億円とされるべきであるし、前記契約当時既に九億円以上と予想していた。

5  同1の(五)のうち、原告が被告主張の受取家賃を雑収入金額に計上した事実を認めるが、その余の主張を争う。

6  同1の(六)の未払事業税の認容は被告主張の更正処分によるものであるが、原告は、その更正処分についても抗争している。

7  同2のうち、原告が本件事業年度の申告課税土地譲渡利益金額を零円として申告した事実を認める。

8  同2の(一)及び(二)のうち、原告が昭和五二年七月二五日上野ビスタに本件不動産を代金二二億五〇〇〇万円で売り渡し、本件不動産を代金一三億円で購入した事実を認めるが、その余の主張を争う。

9  同2の(三)及び(四)の各主張を争う。

10  同3の主張を争う。

11  同4の主張を争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因記載の事実はすべて当事者間に争いがないので、以下、抗弁について判断する。

二  抗弁1(所得金額の算出)について

1  土地建物譲渡収益計上の適否

(一)  抗弁1の(一)のうち、原告が昭和五二年七月二五日、上野ビスタに対し、本件不動産を代金二二億五〇〇〇万円で売り渡す契約をし、同日、原告が上野ビスタから内金一七億五〇〇〇万円の支払を受け、同時に、本件不動産の前所有者京成電鉄から上野ビスタに対し、中間省略の方法にて売買を原因とする所有権移転登記が経由された事実は当事者間に争いがない。

(二)  右売買による収益を本件事業年度の収益として計上すべきか否かについては、法人税法上、益金及び損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算される(同法二二条四項)から、収益の計上時期についても一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によるのが相当と考えられる。そして、今日の会計処理において、収益の計上は、特別な事情のない限り、権利確定主義又は権利発生主義により行われるのが公正妥当と解される。そこで、不動産の譲渡による収益も、売買契約の効力の発生する時(権利発生主義)又は引渡し、所有権移転登記、代金の相当部分の収受などのように収益実現の可能性が客観的に確実になつたと認められる時期(権利確定主義)を含む事業年度にこれを計上すべきである。

(三)  これを本件において検討するに、前記(一)記載の事実によれば、原告と上野ビスタとの間で売買契約が締結された昭和五二年七月二五日の時点で、売買代金総額の七七パーセントを超える金額が上野ビスタから原告に支払われ、かつ、本件不動産の所有権登記も上野ビスタ名義に移転されたのであるから、かかる事情に照らせば、昭和五二年七月二五日が、売買契約の効力が発生する時であり、かつ、本件不動産の収益の可能性が客観的に確実になつたと認められる時であると解することができる。

(四)  原告は、本件不動産の引渡し及び残金支払の期限が昭和五三年四月三〇日と定められており、前期昭和五二年七月二五日以降も、原告において実際に本件不動産を引き渡したと見るべき昭和五七年八月ころまで、原告が本件不動産を自ら管理してきたこと等を理由に、本件不動産の譲渡収益を本件事業年度に計上すべきでないと主張する。

(五)  確かに、原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証、官署作成部分の成立に争いなく、原告代表者岡野全孝尋問(以下「原告代表者尋問」という。)の結果により原本の存在及び私文書部分の成立を認める甲第三号証、証人島田薫、同宇野亨の各証言、原告代表者尋問の結果によれば、本件売買契約においては、本件不動産の引渡し期限は昭和五三年四月三〇日と定められ、原告は上野ビスタに対し、同日限り上野ビスタから売買残代金五億円の支払を受けるのと引換えに、本件建物内のテナント三社を立退かせて本件不動産を上野ビスタに引き渡すものとされたこと、昭和五二年七月二五日以降も、原告は本件不動産を管理し、公租公課は原告の負担すべきものとされ、かつ、テナントとの賃貸借契約は、原告が依然として賃貸人の地位に止まり、家賃収取権を有するものとされたこと、これにより原告は同年一二月ころ、第一建築サービス株式会社に対し、本件建物の設備保守管理業務を委託し、そして、テナントからの家賃を取得し、かつ、公租公課の負担義務を負つたこと、原告の昭和五二年一二月度決算において、会計担当者島田薫は、原告の取締役の一人宇野亨の指示により、本件売買による益金を売上げ勘定には計上しなかつたことを認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。

(六)  しかしながら、原告が本件売買契約時以降も本件不動産を管理していたのは、原告の売主としての義務であるテナント三社との立退交渉に原告が当たる必要上、上野ビスタから許容・委託されたことで、引渡しがなされるまでの間、原告が本件不動産を管理する以上(公租公課の負担も管理義務の一環と解することが可能である。)、その見返り費用として、本件建物の家賃を原告が取得することを許されたと解して一向に差し支えない。

そして、原本の存在及び成立に争いのない乙第一六号証の一、二、官署作成部分の成立に争いなく、証人近藤基の証言により原本の存在及び私文書部分の成立を認める甲第二号証、官署作成部分の成立に争いなく、原告代表者尋問の結果により原本の存在及び私文書部分の成立を認める甲第四、第五号証に、証人近藤基の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、昭和五三年一〇月ころ、原告と上野ビスタとはともに、テナントの一社に対し、本件建物は上野ビスタの所有であるが、賃貸人は原告である趣旨を通知していること、上野ビスタは、前記引渡し期限を過ぎた昭和五五年ころまで、度々原告に対し早期引渡しの催告をしたが、昭和五六年ころ、テナントの立退交渉の先行きを悲観した原告は本件不動産の買戻しを上野ビスタに交渉し、これが不調となつたこと、昭和五七年四月に至り、上野ビスタは原告に対し、テナント三社の居る現状のままでの明渡しを要求するとの最終通告をし、昭和五九年ころ原告は上野ビスタに対し、本件不動産を引き渡したこと、原告は、前記の管理委託料、固定資産税等をしばしば遅滞し、上野ビスタは、この遅滞分を原告に代つて立替払いし、その都度内容証明郵便にてその旨を通告していたが、結局のところ、原告が右立替金を現実に求償されることはなかつたこと、以上の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、原告も上野ビスタも、本件不動産の所有権が実質上も上野ビスタにあることを十二分に前提として行動しているのであつて、前記の原告の本件不動産の管理も上野ビスタの意思の範囲内であることは明らかである。よつて、原告が本件不動産を管理していたことをもつて、上野ビスタが単に登記簿上の名義人に止まり、原告が実質の所有者であるということはできない。

なお、証人島田薫や原告代表者は、「原告が本件不動産を管理し、固定資産税を負担していたのは、原告が本件不動産の所有権者であつたからだ。」と述べ、証人宇野亨も、「本件不動産の引渡し終了までは原告のものでいいが、原告の所有(名義)とすると、金融上不都合なので、上野ビスタという関係ない人を表示した。」と述べ、あたかも上野ビスタは名義だけの存在のようにいうが、いずれも主観的観測の域を出ず、前記の客観的事実に反するので信用することができない。

(七)  以上の検討によれば、原告の前記(四)記載の主張は採用することができない。

したがつて、本件不動産の譲渡収益二二億五〇〇〇万円は、本件事業年度の所得に計上するのが相当である。

2  土地建物に係る固定資産税否認について

(一)  抗弁1の(二)のうち、原告が本件不動産に係る固定資産税一九八万四七二五円を本件事業年度の損金の額に算入した事実は当事者間に争いがない。

(二)  前記二の1のとおり、本件不動産の譲渡が会計処理上本件事業年度に行われたと認める以上、本件事業年度において本件不動産に係る固定資産税の支出を認容することは相当でないかも知れない。しかし、前記1の(五)で認定したとおり、本件売買にあつては、本件不動産の現実の引渡しまで、公租公課の負担義務は原告にあり、かつ、本件事業年度中の、原告が本件不動産を取得した後の公租公課は、原告がこれを支出したと認めることができる。したがつて、この固定資産税の損金額への算入を否認したことは相当でない。

3  土地建物の取得原価認容について

(一)  本件不動産の取得原価が一三億円である事実は当事者間に争いがない。

(二)  前記二の1のとおり本件不動産の譲渡収益を本件事業年度に計上する以上、この収益に対する費用もまた本件事業年度に計上するのが相当である。したがつて、右の取得原価を認容し、所得金額から減算するのは正当である。

4  立退補償料の認容について

(一)  立退補償料の額について判断する。

成立に争いのない甲第一号証、乙第八号証の一、証人近藤基、同島田薫、同宇野亨の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、売買契約当時立退交渉については、テナント三社それぞれに対して「つて」があつたことから金銭的にも楽観し、五億円と見込んでいたこと、昭和五四年二月一日にテナントのうちの株式会社高正と原告との間で一億円で立ち退いてもらう即決和解が成立し、当初の予定より立退補償料が嵩む虞れが生じたため、原告と上野ビスタとの間で前同日に本件不動産の代金を一億円引き上げる合意がなされたこと、その後、高正が即決和解に対して請求異議の申立てをし、他のテナントとの立退交渉もうまくいかなかつたため、昭和五六年ころには原告が本件不動産を買い戻す話もあつたこと、結局現状のまま上野ビスタに昭和五九年ころ引き渡したこと、昭和五七年ころに立退補償料を支払う必要が無くなつたためとして、昭和五九年に入つて昭和五七年の事業年度について六億円の修正申告をしていることが認められる。証人宇野亨は、「(立退料として)、五億や六億ではとてもそれは決まりがつかないだろうという判断をしていた。」とか、「(残金)五億円が立退料だという認識の下に私の方は留保に同意したわけではない。」などと供述するが、これらはあくまでも宇野個人の主観に過ぎないから、前記認定を左右するに足りないというべきである。その他、右認定を覆すに足りる証拠はない。これらの事実に照らすと、原告は本件事業年度当時に立退補償料として五億円を予定していたということができる。

(二)  立退補償料は、本件不動産の譲渡収益に対応する費用であるから、これを認容して、本件事業年度の所得金額から減算することは正当である。

5  建物に係る受取家賃の否認について

(一)  抗弁1の(五)のうち、原告が本件建物をテナント三社に賃貸したことにより生じた受取家賃八八二万八〇〇〇円を雑収入金額に計上した事実は当事者間に争いがない。

(二)  前記二の1のとおり本件不動産の譲渡が会計処理上本件事業年度に行われたと認める以上、本件建物の家賃は上野ビスタに帰属するものと認めるのが相当かも知れない。しかし、前記1の(五)で認定したとおり、本件売買にあつては、本件不動産の現実の引渡しまで、本件建物の賃貸借契約は原告がその当事者となり、家賃を取得することを上野ビスタから許されており、現実にも本件事業年度中の原告が本件不動産を取得した後の家賃はこれを自己の収入として取得していたことが認められる。したがつて、右受取家賃を雑収入金額に計上したことを否認し、所得金額から減算したことは正当でない。

6  抗弁1の(六)(未払事業税認容)の事実については、原告がこれを別件訴訟において争つていると解されるのであるが、被告が主張する額は最大限のものとして、とりあえず、これを本件事業年度の所得金額から減算することは相当と認めることができる。

三  課税土地譲渡利益金額の算出

1  前記二の1に認定し、説示したとおり、原告は、昭和五二年七月二五日に本件不動産を上野ビスタに譲渡したものと見るべきであるから、本件土地の譲渡は措置法六三条の規定に該当する。

2  本件不動産の譲渡価額は二二億五〇〇〇万円であつたところ、本件土地の譲渡による収益額を算出するには、被告主張の抗弁2の(一)のような方法を用いるのが相当である。

これによると、本件土地の譲渡による収益額は一八億九四五〇万円となる。

3  本件不動産の譲渡原価については、これを購入価額一三億円に、立退補償料相当額五億円を加算した一八億円と見るべきであるところ、本件土地の譲渡原価を算出するについても、被告主張の抗弁2の(二)のような方法を用いるのが相当である。

これによると、本件土地の譲渡原価は一五億一五六〇万円となる。

4  また、措置法六三条二項に規定する直接又は間接に要した経費の額については、措置法施行令三八条の四第六項一号、二号、七項の各規定に基づき、被告主張の抗弁2の(三)及び(四)のとおり計算するのが相当である。

これによると、負債利子の額は七五七万八〇〇〇円となり、販売費及び一般管理費の額は五〇五万二〇〇〇円となる。

5  以上によると、課税土地譲渡利益金額は、2の一八億九四五〇万円から、3及び4の合計額一五億二八二三万円を差し引いた三億六六二七万円となる。

四  したがつて、原告の本件事業年度の所得金額は、原告申告所得金額マイナス一八八一万七四二一円に、本件不動産譲渡収入二二億五〇〇〇万円及び建物に係る受取家賃八八二万八〇〇〇円をそれぞれ加算した額二二億四〇〇一万〇五七九円から、本件不動産譲渡原価のうち取得原価一三億円、立退補償料五億円、本件不動産に係る固定資産税一九八万四七二五円及び未払事業税五八四三万四二四〇円の合計一八億六〇四一万八九六五円を減じた三億七九五九万一六一四円となり、また課税土地譲渡利益金額は三億六六二七万円となつて、いずれも被告のなした更正処分における所得金額二億九六六四万八三三九円及び課税土地譲渡利益金額三億〇一六五万九〇〇〇円を上回ることが明らかであるので、右の更正処分は適法であると認めることができ、また、それゆえ、これに対する過少申告加算税の賦課処分も適法であると認めることができる。

五  してみれば、被告の抗弁は正当で理由があるので、原告の請求はいずれも失当なものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤一隆 裁判官 池本壽美子 裁判官 堀内照美)

物件目録

一 土地

東京都台東区上野四丁目七八番 宅地 七一・九三平方メートル

同所 七九番 〃 一五二・七九 〃

同所 八〇番 〃 一七〇・六七 〃

同所 八一番 〃 四七・三〇 〃

同所 八二番 〃 三三・四二 〃

同所 八三番 〃 八九・三八 〃

同所 八五番 〃 一一・九〇 〃

合計 (七筆) 五七七・三九 〃

二 建物

所在 東京都台東区上野四丁目七八番地、七九番地、八〇番地、八一番地、八二番地

家屋番号 三番

種類 事務所・店舗

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造地階付八階建

床面積 一階 四六三・一〇平方メートル

二階 四七三・二八 〃

三階 四七三・二八 〃

四階 四六〇・七六 〃

五階 四七〇・九七 〃

六階 四五九・九三 〃

七階 四五九・九三 〃

八階 八五・四二 〃

地下一階 五一六・〇六 〃

〃二階 五一四・七四四 〃 以上

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